犯罪加害者の家族を描いた小説『手紙』(東野圭吾著)読了記~あらすじと感想 - True Vine

犯罪加害者の家族を描いた小説『手紙』(東野圭吾著)読了記~あらすじと感想

小説『手紙』(東野圭吾著)読了記

ある日本語を勉強している韓国人の方に、なぜ日本語を勉強しているのかと尋ねたら、東野圭吾が好きだから日本語で読んでみたいからという答えが返ってきました。そこで手元にあった『手紙』を読んでみることにしたのですが、東野先生の読ませる力はさすがです。引き込まれて一気に読めました。

この作品は2001年から2002年にかけて毎日新聞日曜版に連載されたもので、2003年に単行本が、2006年に文庫本が出版されると発行部数240万部を超える大ベストセラーとなり、舞台化、映画化、ドラマ化などがなされています。

最も新しいところでは、テレビ東京で2018年12月19日(水)夜9時に放送したドラマスペシャル「東野圭吾 手紙」(亀梨和也主演)がありました。

『手紙』あらすじ

両親に先立たれて天涯孤独の二人兄弟。兄の剛志は無理がたたって腰を痛めたせいでバイトをやめることになり、高校生の弟の直貴の大学進学費用を捻出できないことに悩み、引っ越し屋のアルバイトで訪れたことのある邸宅に泥棒に入る。

ところが、寝ていた老婦人に見つかり通報されそうになる。痛めた腰のせいで逃げることもできなかった剛は持っていたドライバーを彼女の喉に突き刺してしまった。老婦人は息絶えた。それでも腰のせいで遠くには逃げられず、すぐに見つかり捕まった。

この日から弟直貴の生活は一変した。

食べるものにも困るほど経済的に困窮したことはもちろん、周囲の態度もあからさまではなくても明らかに変わった。ここから彼の差別との戦いが始まる。アルバイトすらままならず、苦労して高校を卒業してからも鉄くずのリサイクル会社にしか拾ってもらえず底辺の生活。

このような弟の苦労には全く気付かない様子の兄は毎月のんきな手紙を送ってくる。それを苦々しく思っても自分のために罪を犯したと思うと言えない直貴の苦悩。

たいていの人が事情を知ると態度を変える中、事情を知っても態度を変えない人物も少数ながら現れる。

夢、恋愛、就職などで兄のことがいつも足を引っ張りいろいろなことをあきらめて暮らすのが癖になっていた直貴。

「差別はね、当然なんだよ。」

平野社長の言葉は転機をもたらす。ほかの人間とのつながりの糸の大切さを知る。

そして、結婚をし、子どもも生まれる。

しかし子どもにまで差別が及んだ時、彼が下した決断は…。

 

『手紙』の感想

犯罪加害者の家族について考える

重い内容でした。

犯罪加害者の家族のことなど、普段あまり考えたことがありませんでした。しかしもし周りにそういう人が実際に現れたらどうだろうと思うと、やはりあまり関わり合いにはなりたくないと思うと思います。差別はよくないと頭ではわかっていても、人の内面までは見えないから、わかりやすいレッテルで判断して怖いものには近づかないという選択をしてしまうでしょう。

私のように考える世間一般の人々に囲まれて生きる主人公の人生というものは、本当に不憫です。本の中で

「きみのお兄さんはいわば自殺をしたようなものだ、社会的な死を選んだわけだ。」

「剛志が選んだのは自らの社会的死だけではなかったと言うことか」

という言葉が出てきます。

犯罪を犯すと、本人だけでなくその家族の社会性をも抹殺してしまうことになるのです。犯罪で傷つくのは実は被害者だけではなく、加害者とその周囲の人間すべてが傷つくのです。この点を、犯罪に手を染めようと考えている人間はもっと理解していなければなりません。もし理解していればまず思いとどまるべきです。犯してからではもう絶対に元には戻らないのです。

結局主人公は愛するものすべてを手放さないでいることは無理なことだと悟り、苦渋の選択をします。私たちの人生も、いつも何かを選ぶたびに別の道を手放しています。悲しくても、一つしか選択できないのなら、どちらが自分にとって本当に大切なのかをよく考えて選択していくしかないでしょう。その選択をした後で選択が正しかったかどうかは知る由もありません。後戻りはできないのですから、ただその道を信じて進むしかないのです。後悔しないためにできることは、その時その時にできる最善を尽くすことだけです。

ただ、迷うとき、決断をするときには、必ず神様に尋ねるべきだということを少し前に知りました。神様は今も生きて働いているのですから。私は今まであまりそれをしてきませんでしたが、これからは努めて尋ねようと思っています。そして神様からの答えをちゃんとキャッチできるようになりたいと思います。

他の人の立場に立ってその心情を想像してみることの大切さ

もう一つ思ったことは人は自分中心の生き物だということです。どんなに相手のことを思っているつもりでも、実際には相手の気持ちが全く推し量れておらず、自己満足で終わっていたりすることがあるのです。そのことをこの小説では改めて実感させてくれました。謙虚な気持ちと想像力を働かせて、人の気持ちをその立場に立って考えてみるという作業を、面倒くさがらずにするようにしたいものです。

犯罪の背後にあるのは貧困

ところでそもそも、この兄が犯罪に手を伸ばしたきっかけは貧困でした。社会的弱者に福祉の手が回らない社会は、どんどんこういった悲しい犯罪を増長させる温床となることでしょう。

今の日本がまさにそうです。

アベノミクスが失敗であることは少し調べればすぐわかります。格差社会を作り出し、貧困家庭を増やしています。大企業を優遇し、弱者を苦しめる税制。その上、福祉のためのお金をどんどん削減する一方で、アメリカの軍需産業を潤し、トランプ大統領のご機嫌を取るために武器や戦闘機購入に莫大な予算を充てる政策は、到底納得できません。

2012年12月に自民党が勝利してしまい、安倍政権ができてから、いったいどれだけの悪法ができたことでしょう。森友、加計学園ほどの大きな事件が起きたにもかかわらず、そのまま政権の座に居座り続ける根性が全く分かりません。日本をこれ以上破壊しないでいただきたいものです。

そして私たち市民も政治にもっと関心をもって政治を監視していかなければ、また必要であれば行動に移す行動力も備えなければと思います。

 

 

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