韓国はなぜ大量にPCR検査ができて日本はできないのか
日本と韓国のこれまでのPCR検査実施件数
日本のこれまでのPCR検査実施件数は、民間も含めた正式な発表がないので最新のはっきりとした件数がわからないのですが(これは大問題だと思います)、厚生労働省のサイトによると4月14日発表されている分までで累計6万4387人で、2月18日~4月7日の国内(国立感染症研究所、検疫所、地方衛生研究所、保健所等)におけるPCR検査の実施件数は9万4312件となっています。
いっぽう韓国は、韓国の疾病管理本部によれば4月13日0時基準で検査件数の累計は、86万1216件ということです。
ドイツもアメリカも膨大な検査をしています。
人口100万人当たりの検査数は韓国は1万900人を超えているのに対し、日本はたった880人です。ちなみにアメリカも1万1千人以上、ドイツは2万人以上です。
日本の検査件数は最近増えてきたとはいえまだ十分ではありません。
厚労省HPのコロナ感染症についてのサイトにある「帰国者・接触者相談センターの相談件数等(都道府県別)(2020年4月4日掲載分)」
というのをクリックすると、「2月1日~3月31日」の間の「相談件数」、「外来受診患者数」、「PCR検査実施件数」の表が見られます。これを見ると検査にたどり着くのがいかに狭き門であるかがわかります。例えば東京なら相談した人のうち検査実施までたどり着いた人は2.3%余りにすぎません。
わざと検査数を絞っているという話も聞きます。なぜなのでしょう。
検査否定論者の言い分
ネットを見ていると、いまだにPCR検査を増やすことに否定的な意見があって、驚きます。
その人たちが言うには、
PCR検査をしたところで、偽陽性や偽陰性がたくさん出るんだろ?信頼できないから意味ない!大体、薬もないんだから検査したって無意味だ。無症状の人が入院してベッドが埋まって医療崩壊につながる!!検査するのもとても手間がかかって大変なんだから限られた人員しかいないのに絞って当たり前だ!
ということらしいのですが・・・。
いやいや、前にも書いたと思いますが、まず検査しないことには隔離ができない、隔離しなければ感染の連鎖は止められないという、単純なことがなぜわからないのでしょう。ベッド数問題については無症状・軽症の人は宿泊施設に隔離する方法が日本でも始まっています。ファクトチェックの記事にも書きましたが、韓国で行われているRT-PCR検査の正確度は98%とも99%ともいわれています。韓国では上気道と下気道の二つの検体をとって検査し、結果がわかれれば何度も再検査をしていますから、偽陽性や偽陰性の心配はほとんどされていません。日本もこのようにすればいいのでは?それとももしかして日本の検査試薬や検査機器、技術が韓国よりもだいぶ劣っているということなのでしょうか…。(ナビタスクリニックの久住英二医師が2月にテレビでPCR検査は感度が50%くらいしかないとおっしゃっていたのが気になります。)検体採取が大変というのは、韓国のドライブスルー方式や、ウォークスルー方式を参考にすれば、防護服などの取り換えもいちいち行う必要もなく、安全に、なおかつ時間を大幅に短縮できます。(もちろんビニール手袋は毎回取り換えなければなりません。)これで一人当たり2時間かかっていたものが20分で済むそうです。(韓国は8分と聞いたことがあります。)日本でも新潟など一部ではドライブスルー方式が採用されているようです。ドライブスルー方式は画期的だったので世界各国がすぐにまねをしましたが、日本政府としてはまだなぜか取り入れていません。邪魔なプライドは捨てて、良いものはどんどん取り入れたらいいと思います。インドのケララ州ではウォークスルー方式を取り入れたようです。
大部分の人は私と同じく検査数を増やすべきと思っていることと思います。
データがないことには対策の取りようがないですから。
あと残る障壁は採取した検体を調べる作業です。これも日本では検査技師が足りない、マンパワーには限りがある、といわれていて大変そうなのですが、韓国ではなぜか簡単そうなのです。どうしてなのか、探ってみました。
韓国で行われているリアルタイムRT-PCR検査とは
韓国ではなぜあのように大量の検査ができたのか。それを知るためには韓国で行われている検査がどのようなものなのか知る必要があるでしょう。
大韓診断検査医学会理事長クォン・ゲチョル教授、同じく大韓診断検査医学会感染管理理事イ・ヒョクミン氏に東亜日報のイ・ジンハン医学専門記者が2月に行ったインタビュー映像と、KTVのムーン・ウォーク「CNNも報道した診断試薬企業の実情」という映像の中で、韓国で行われているPCR検査がどのようなものか説明されていたのでそれらを参考にしました。(できるだけ正確を期しましたが、私は専門外なので、もし間違いがありましたらご指摘いただけると幸いです。)
日本では検査を受けるまでにも時間がかかりますが、検査結果が出るまでにも2,3日はかかると聞いています。韓国でもはじめは検査結果が出るまでに1~2日かかっていたといいます。しかし、2月の早い段階で6時間で検査結果がわかるようになり、翌日には本人に知らせる体制ができていました。これができたのは一つには「緊急使用承認制度」を使って、通常6か月以上かかっていた検査の承認手続きを食品医薬品安全処がたった1週間ほどで終わらせていたこと、もう一つには検査が可能な検査機関を継続的に広く募集して教育し、検証を行って優秀検査室として認証していったことです。2月下旬の時点で優秀検査室として認証を受けた機関は77か所で、すでに1日に1万件から1万5千件の検査を行っていました。患者数に直すと7000人から1万人分ほどです。
韓国で現在行われている検査法はリアルタイムRT-PCRというものです。
PCRはPolymerase Chain Reactionの略で、ポリメラーゼ連鎖反応、つまりDNAを大量に増やす技術です。しかし新型コロナウイルスはDNAではなくRNAを持っているため逆転写酵素を使うという意味でRT(Reverse Transcription)がついています。
ポリメラーゼ連鎖反応については、英語ですがアニメーションで説明されたこの動画がわかりやすかったので載せておきます。
韓国の疾病管理本部でもともと使われていたPCR検査法は、遺伝子の増幅反応が終了した後で最終的な産物の特定部位を一つ一つ検査しなければならなかったため時間がかかるものでした。
Real time PCR検査法は、新型コロナウイルスに特有の遺伝子を増幅させて蛍光物質をつけてある一定基準以上に蛍光物質が増幅されれば陽性とわかるというものです。
代表的なコロナ19の診断キット開発企業のseegene(シージェン)の場合はたったの3週間で診断キットを開発し、2月12日に食品医薬品安全処からコロナ19診断試薬緊急使用承認を受けました。seegene(シージェン씨젠)のチョン・ジョンユン代表理事の説明によれば、一人分の検体から3個のコロナ19特有のターゲットとなる遺伝子(Egene, RdRPgene, Ngene) を検査します。ターゲットとなる遺伝子が一つでもあれば新型コロナウイルスは特定できますが、コロナウイルスのようなRNAウイルスは変異しやすいため、安全のために3個の遺伝子を同時に検査しているということです。WHOでは2個を推奨しており、3個検査するのはここだけだそうです。この遺伝子をリアルタイム遺伝子増幅器で増幅させ、PCRが進行している間、DNA分子が増幅する過程を定量的に観察できるそうです。敏感度も特異度も高い正確性の高い検査だということです。
かかる時間は公には6時間とは言っていますが、実際には核酸(RNA)抽出という過程と実際の検査過程を合わせて、3時間くらいで行っているそうです。30分とか1時間でできるといわれる検査も開発されてはいますが、偽陽性や偽陰性が多く出る可能性が高く臨床試験評価できていないため使っていないということです。
seegeneのすごいところは、すべて自動化しているところで、診断試薬開発も人工知能を使って自動化し、検査も自動化して、なんと一度に1万人分もの検査ができるとのことです。なるほどここのリアルタイム遺伝子増幅器は大きい。日本のテレビで紹介されていた家庭用コーヒーメーカーほどのサイズの装置(1度に5検体できる)とはまるで違います。
韓国産コロナ診断キットに問い合わせ殺到
このような韓国製のRT-PCR検査法は宣伝など一切行わなくても世界中から問い合わせが殺到し、イタリア、イギリス、フランス、スペイン、ドイツ、イスラエル、カナダ、ハンガリー、ブラジル、UAE、アジア各国、アメリカなどseegeneだけでも世界40か国以上、韓国全体では120か国以上に順次輸出・提供されることが決まっています。14日もアメリカに輸出する韓国の診断キット60万回分が出荷され、追ってさらに15万回分輸出されます。今回輸出するのはFDAの認証を先に通過したSDバイオセンサー( SD바이오센서)、ソルジェエント( 솔젠트)、オサンヘルスケア( 오상헬스케어)の3社で、75万回分で合わせておよそ1140万ドル規模です。全世界ではすでに770万回分が輸出されています。
14日にはモロッコから診断キットを受け取りに2度目のモロッコのチャーター機が来ました。面白いのは、チャーター機には来るときに在外韓国国民を乗せてきて、帰る時には診断キットや不足している医療物品を積んで帰っていったことです。効率的で柔軟なwin winのアイデアです。
多国籍チャーター機というのも登場しました。マダガスカルとカメルーンの在外韓国人はチャーター機でエチオピアを経て韓国に入国しました。このチャーター機には韓国人のみならず、アメリカ人、日本人、ドイツ人、イギリス人、ノルウェイ人、オーストラリア人も同乗してきたそうです。
日本で検査数が少ない理由
条件が厳しすぎて検査にたどり着けない
窓口が保健所などに設けられた「帰国者・接触者相談センター」に限られているため狭すぎて電話もつながらないうえ、「相談センター」でほとんど必要と判断してもらえないという現状があります。必要と判断されたら、一般公開されていない専用の外来「帰国者・接触者外来」を受診して検体を採取する流れになりますが、それも渋滞が起こっていてひどいと1週間も待たされるそうです。(ソース:PCR検査 必要と判断しても実施まで「5日程度かかる」)
検査だけのためにここまで苦労しなければならないことは大問題です。
クラスター対策のみに力を入れたこと、患者数を増やして病院をパンクさせたくなかったことなどが、意図的に検査数を抑制する結果となったようです。厚労省の『できるだけPCR検査をするな』という方針に保健所が応じる形になっているといいます。
「PCR検査の条件は『38度が2週間』と言われた」という証言もあります。
検査に特化した施設を作っていない
検体採取は鼻の奥の粘液を採取するときに咳き込んだりくしゃみしたりするため、感染の危険が伴います。だから、採取する側は防護服を着用する必要があります。別業務と並行して検査を行うのはかなりの負担です。
ところが日本には検体採取だけに特化したPCR検査センターやドライブスルーのような施設がわずかしかないため検体採取の効率が悪いのです。
大学や民間会社の力が生かされていない
3月に長崎では、国立大学法人長崎大学とキヤノンメディカルシステムズ株式会社が共同開発した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)遺伝子検査システムについて、長崎県と協力して県内での臨床研究を開始しているようです。この検査システムは、患者検体から新型コロナウイルス遺伝子を検出するまでに要する時間が、検体の前処理操作(ウイルス遺伝子の抽出)を含めても40分以内ととても迅速で、装置は軽量かつコンパクトなので医療現場や離島等での使用に適しているということです。
参照:長崎大学のホームページ内の「新型コロナウイルスを約10分で検出できるウイルス遺伝子検査システムの確立と長崎県内での臨床研究の開始について」
このように大学には検査機器も人的リソースも十分にあると考えられます。文部科学省が各大学や研究機関に指示を出して日本全国で検査を行えばどれだけたくさんの検査をすることができることでしょう。ところが、大学は閉鎖されてしまっています。
全自動検査機器を十分活用していない
私も今回調べて分かったことですが、韓国のシージェン社ほどではなくとも、全自動で大量に検査できる装置が日本国内にもたくさんあります。
有名なスイスの製薬大手ロシュ社( Roche Diagnostics International Ltd.)の遺伝子解析装置で「コバス 6800 システム」と「コバス 8800 システム」というのがあります。去年7月の時点でも日本国内に「コバス 6800 システム」は23台、「コバス 8800 システム」10台あったことがわかっています。(ソース)
この「コバス 6800 システム」は24時間でに1000件(日本経済新聞の記事によると1500件)、「コバス 8800 システム」は24時間に4000件のPCR検査ができるそうです。つまり、すべての装置を稼働すると仮定すると、一日に63000件も検査できる計算になるのです。
差別の蔓延と諦め
悲しいことですが、日本では感染者を責める風潮が見られます。ひどい場合には、最前線で戦ってくれている医療関係者や生活を支えてくれている運送業者、その家族にまで差別と偏見があるようです。
先述したように検査数が極度に絞られていることから検査をあきらめたり、感染者に対する差別を恐れて検査を受けない人がいることも確かでしょう。
今後の希望
PCR検査センター設置
4月16日のニュースで厚労省は医師会主導でやっと「PCR検査センター」を作ってかかりつけ医が直接センターに検査を依頼できるようにするといっていました。まったく対応が遅すぎるといわざるを得ませんが、それでも、良いニュースです。
ロシュの検査キットが国内で承認
ロシュの診断薬事業部門の日本法人であるロシュ・ダイアグノスティックス(東京・港)が4月7日、新型コロナウイルスを全自動で検出する遺伝子検査キットについて、厚生労働省から製造販売承認を取得し、販売を開始したと発表しました。(参照:日本経済新聞「ロシュのコロナ自動検査キットに承認」)
この日経の記事には、
今回申請した検査キットは、ロシュがエイズウイルス(HIV)など他の感染症の診断用として販売してきた大型診断機器「コバス6800」と「コバス8800」を新型コロナの検査にも使えるように対応した。
と書かれており、どうやら「コバス6800」と「コバス8800」は検査キットが承認されなければ使えない宝の持ち腐れ状態だったらしいことがわかります。それが晴れて承認されたわけですから、これからそれらを活用できるようにすれば、検査件数が増えるのは時間の問題でしょう。
ロシュ社のコバスが全自動で検査を行う様子の動画がありましたので載せておきます。
感染の広がりが見えなければ何の手の打ちようもありません。やはり、検査がもっと受けやすくなるように政府にはしっかりと体制を整えてほしいものです。
【参考資料】
코로나19 검사 음성에서 양성으로? 아무도 알려주지 않는 코로나검사의 오해와 진실! 국내
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今からでもいいから、小中学生全員を対象にした「学校内でのPCR検査」が出来る体勢を作り、順次学校ごとの検査体制を整えてゆく必要があるでしょう。全国的に休校にするのは乱暴なやり方でした。文科大臣始め首相や野党広報部、マスコミ、教育評論家、市長などにもこのことを提案してきましたが何所も,誰も反応してくれませんでした。
ご検討頂くことをお願いします。
こんにちは。
残念ながら私もそのご意見に賛成できかねます。
今日検査して陰性でも、明日にはかかっているかもしれないのです。いたちごっこになり無駄が多すぎると思います。