パラサイト 半地下の家族 기생충(カンヌ受賞韓国映画)のキャスト、あらすじ、感想、考察(ネタバレ)
『パラサイト 半地下の家族』(기생충,寄生虫,PARASITE, 2019) カンヌ映画祭パルムドール受賞作
2019年5月、第72回カンヌ国際映画祭の長編コンペティション部門で最高賞のパルムドールに選ばれた、韓国のポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族(原題:기생충 キセンチュン 寄生虫)』という映画があります。6月17日にはオーストラリアのシドニー映画祭でも最高賞の「シドニー・フィルム・プライズ」を受賞したと聯合ニュースが伝えていました。この映画は世界192か国に販売され、韓国映画で最多海外販売を記録しました。
貧富の格差を扱った内容なので、北朝鮮の対外宣伝用メディア「朝鮮の今日」が名指しでこの映画を例に挙げ、資本主義制度が貧富の格差を拡大させているとしたうえで、それに対して北朝鮮は人々が平等な生活を享受していて世の人々のあこがれの対象となっていると6月18日に報じたと中央日報や朝日新聞が記事にしていたのでご存知の方もいらっしゃると思います。
韓国では5月30日に公開され、私はその直後に実は見てきたのですが、内容が私にはあまりにも衝撃的だったのでレビューを書く気が起きずに今まで時間がたってしまいました。今日は重い腰を上げて、この映画を紹介します。
(追記)日本でも2020年1月10日から全国公開されます。
(追記)3部門にノミネートされ、2020年1月5日に発表された第77回ゴールデングローブ賞では外国語映画賞に輝きました!
(追記)2020年1月13日に第92回アカデミー賞の全ノミネート作品と候補者が発表されました。それによると、ポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」は作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞、美術賞、国際長編映画賞(旧外国語映画賞)のあわせて6つ(!)の部門にノミネートされたということです。韓国映画がアカデミー賞の最終候補にノミネートされたのはこれが初めてです。すごいですね!第92回アカデミー賞授賞式は2020年2月9日(米国時間)、アメリカ・ハリウッドのドルビー・シアターで開催されます。期待が膨らみます。
(追記)2020年2月10日(日本時間)、「パラサイト 半地下の家族」は第92回アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞(旧外国語映画賞)を受賞し、アジア映画初の4冠を達成しました!英語ではない外国語で作られた映画が作品賞を受賞したのは92年のオスカー史上初の快挙です。
映画『パラサイト』の基本情報
題名:『パラサイト 半地下の家族 PARASITE,(原題:기생충 キセンチュン 寄生虫)』2019
観覧客の評価点:9.09
記者・評論家の評価点:9.06
ネチズンの評価点:8.50
ジャンル:ドラマ
制作国:韓国
時間:131分
公開日(韓国):2019年5月30日
日本全国公開日:2020年1月10日(金)(追記)
日本先行公開:2019年12月27日(追記)
年齢制限(韓国) :15歳以上観覧可(注意:親子で見に行くには気まずいシーンあり!)
韓国内累積観客数:8,550,655人(2019.6.18 基準)→(追記)10,098,612人(2020.02.09 基準。なんと1000万人突破!ちなみに韓国の人口は約5000万人です。)
日本国内観客動員数:100万人突破(2020.02.05 基準)
日本興行収入:14億円突破(2020.02.05 基準)
全米興行収入:3330万ドル突破(2020.02.02 基準)
アメリカ外国語映画歴代ボックスオフィス6位記録(2020.02.02 基準)
監督:
봉준호(ポン・ジュノ:BONG Joon ho)監督
「ポンテイル」とあだ名されるほど、緻密でディティールにこだわることで有名なポン・ジュノ監督。撮影前にシナリオを漫画のように細部まで描いたストーリーボードを自ら作成し、俳優とスタッフに配ったそうです。それがこの作品の完成度を高めていることは確実です。小物一つ一つにも意味をもたせ、見る人にその意味を解き明かしたいという欲求を持たせます。だから何度も見たくなってしまうし、だれかと議論したくなってしまうのです。
以下はポン・ジュノ監督の弁です。
「『パラサイト』はともに生きていくことの難しさに対する話だ。そこから染み出てくる笑いと恐怖と悲しみに関する悲喜劇で、観客は完全に異なる二つの家族に繰り広げられる予測不能な状況を見守ることになる。観覧後にいろいろな考えが浮かぶ映画であることを望む。」
代表作は「殺人の追憶」(2003)、「グエムル 漢江の怪物」(2006)、「母なる証明」(2009)など。1969年、韓国・大邱生まれ。
出演者(キャスト):
송강호 ソン・ガンホ(김기택 キム・ギテク役)
全員無職家族の家長。
이선균 イ・ソンギュン(박동익 パク・ドンイク社長役)
グローバルIT企業のCEO。成功者の典型。
조여정 チョ・ヨジョン(연교 ヨンギョ役)
パク社長の奥さん。シンプルな性格。
최우식 チェ・ウシク(김기우 キム・ギウ役)
全員無職家族の長男。友人から高額の家庭教師のバイトを紹介される。
박소담 パク・ソダム(김기정 キム・ギジョン役)
全員無職家族の娘。
이정은 イ・ジョンウン(문광 ムングァン役)
パク社長の家の住み込み家政婦。
장혜진 チャン・ヘジン(충숙 チュンスク役)
全員無職家族の母親。元ハンマー投げのメダリスト。
정지소 チョン・ジソ(박다혜 パク・ダヘ役)
パク社長の高2の娘。
정현준 チョン・ヒョンジュン(박다송 パク・ダソン役)
パク社長の小3の息子。
박명훈 パク・ミョンフン(근세 グンセ役)
家政婦ムングァンの夫。
『パラサイト』のあらすじ(シノプシスより翻訳)
「迷惑をかけたくはなかったんです。」
家族全員無職で生活は苦しくても仲はいいギテク기택(ソン・ガンホ송강호)家族。
長男のギウ기우(チェ・ウシク최우식)に、名門大学生の友達が紹介してくれた高額の家庭教師の職はやっと訪れた固定収入の希望だ。
家族全員の期待を背負ってパク社長박사장(イ・ソンギュ이선균)の家に向かうギウ。
グローバルIT企業のCEOであるパク社長の邸宅に到着すると若くて美しい奥さんヨンギョ연교(チョ・ヨジョン조여정)がギウを迎える。
しかし、このようにして始まった二つの家族の出会いの先には、取り返しのつかない事件が待っていた…。
映画『パラサイト 半地下の家族』の題名について
この映画の題名は、日本語及び英語では『パラサイトPARASITE』、韓国語の原題では『기생충』(韓国語の発音: キセンチュン 漢字で書くと「寄生虫」)となっています。
本当の寄生虫が出てくるわけではなく、寄生する人物が出てきます。
ギテク(기택)のギ(기)とチュンスク(충숙)のチュン(충)という字は寄生虫(기생충 キセンチュン)の最初と最後の字からとったそうです。子どもたちのギウ(기우)とギジョン(기정)にもギ(기)の字が使われています。
日本公開にあたり「半地下の家族」という副題がつけられました。ギテク一家は言葉通りの半分地中に埋まった半地下の家に暮らしています。韓国の路地を歩いていると、路面すれすれのところに鉄格子のはまった窓があるのをよく目にします。それが半地下の家です。もともと朝鮮戦争後に防空壕代わりに使えるように半地下部屋を設置するよう法律で義務付けたことから建設され、その後は安価な居住空間として賃貸されるようになりました。水圧などの問題のためお手洗いが一段高いところにある特殊な構造が映画でも出てきます。日光はほとんど入らず、カビも生えやすく、窓からは砂ぼこり、時にはもっと汚いもの(!)なども入り込みあまり衛生的ではありませんが、経済的な理由などでやむなく半地下に暮らす人たちが今もわずかながら残っています。
個人的な感想-この映画『パラサイト』は見るべきか?
カンヌ国際映画祭パルムドール賞受賞作品で、ソン・ガンホなど一流俳優が出演しており、評価も高い映画です。格差社会を批判する社会派映画でありながらも、小難しいわけではなく、分かりやすいストーリー運びと、効果的な緩い音楽、ブラックユーモアもあって、いろいろな象徴的小物遣いやカメラワークや設定にも工夫が凝らされていて、よく考えて作られた映画だと思いました。特に先の読めない予想を裏切るストーリーはすごいと思いました。
しかし、正直なところ序盤私は生理的に全く受け付けられませんでした。ゴキブリのような人たち…。途中で映画館から出たいと切実に思った映画はこれが初めてです。(別に本当の寄生虫が出てくるわけではありません。)
まあしかしそれも中盤までで、物語の中盤で話の流れが変わってからは、サスペンスのようなスリラーのような要素も加わって、物語の中にぐいぐい引き込まれてまるでジェットコースターに乗っているようでした。
それでも決して後味のいい映画ではないので、娯楽として軽く映画を楽しみたい人は絶対に見るべきではありません。私に言わせれば言葉は悪いですが「胸糞悪い」という言葉がぴったりの映画でした。映画館を出てくる人からも「チpチッペ찝찝해(すっきりしない嫌な気分だ)」という言葉がちらほら聞こえてきました。
多少の気分の悪さはあるものの、注意を払って見ればいろいろなことを考えさせてくれる映画です。階層、格差、お金、善悪、家族、正義、などなど。いろいろな設定や小物を通して映画で表現しようとしているものが何なのかを考えながら見ると楽しめるかもしれません。そして見るならできれば一人ではなく誰かと一緒に見に行くといいでしょう。見終わった後にいろいろと話がしたくなる映画だからです。(むしろ衝撃的過ぎて考えがまとまらず何も話せなくなる可能性も無きにしもあらずですが。)
こんな映画なのでおススメはしません。でも気になるなら見に行きましょうw。すごい映画であることは間違いありません。
映画『パラサイト』の中の名ゼリフ
詳しいことはネタバレになるのでまだ書きません。
시계방향으로 シゲパンヒャンウロ
(時計回りに)
親子で見ると気まずい場面で出てきます。でも流行語になったんだとか。
가장 완벽한 계획이 뭔지 알아? 무계획이야. カジャン ワンビョッカン ケフェギ ムォンジ アラ?ムゲフェギヤ
(最も完璧な計画が何か知ってるか?無計画だ。)
ギテクのセリフです。
아버지는 계단만 올라오시면 되요 アボジヌン ケダンマンオルラオシミョン トゥエヨ
(お父さんは階段さえ上って来たらいいです)
ギウの終盤のセリフです。「階段」もこの映画では象徴的に使われています。
띵동 띵동 띵동(ピンポン!ピンポン!ピンポン!)
これはセリフではなく呼び鈴の音です。この音から映画の流れが変わります。
냄새가 선을 넘지. ネムセガ ソヌル ノムチ
(臭いが一線を越えるだろう)
パク社長のセリフです。意味深長です。
비가 와서 그런지 미세먼지가 없네요 ピガ ワソ クロンジ ミセモンジガ オムネヨ
(雨が降ったからか、PM2.5がないですね)
ヨンギョの無邪気なセリフですが、この雨は下層民には…。
나 잘 어울리냐고 여기 ナ チャル オウルリニャゴ ヨギ
(僕はよく似合ってるかって、ここが)
ギウのセリフです。パク社長の邸宅にて。
제시카 외동딸 일리노이 시카고, 과 선배는 김진모 그는 니 사촌 ジェシカ ウェドンタル イリノイ シカゴ クァ ソンベヌン キムジンモ クヌン ニ サチョン
(ジェシカ、一人娘、イリノイ、シカゴ、科の先輩はキムジンモ、彼はあんたのいとこ)
ギウとギジョンが設定を確認するために作った歌(?)です。テンポがいいです。映画ではこの部分だけしか出てきませんが、実際には3番まで歌詞を作ったそうです。その楽譜もネットに出回っています(↓)。韓国語ができる人は読んでみてください。引退したお父さんは韓江でヨットの店をやっていて、少女のようなお母さんは幼稚園の園長をしていて、本人はギャラリーでバイトしてシリアにバックパック旅行したといった細かい設定も考えていたことがわかります。さすがポンテイルの別名を持つポン・ジュノ監督です。
ジェシカソング楽譜
余談ですが、この歌の音程どこかで聞いたことがあると思っていたら、「독도는 우리 땅(ドクトヌン ウリタン)」という古い歌の替え歌でした。子供から大人まで誰でも知っている有名な歌ですが実は「독도는 우리 땅(ドクトヌン ウリタン)」とは訳すと「竹島は我らの領土」といった意味で、一般的な日本人にはちょっと気に障る歌ではあります。
ジェシカソング動画(ジェシカ ウェドンタル イリノイシカゴ)
映画『パラサイト』の象徴的なキーワード
あえて説明はしませんが、注目すると良いかもしれないものを列挙していきます。
地下、半地下、地上
線
臭い
階段/坂
モールス信号
光
水
石
計画
インディアン
北朝鮮の言葉
ビールの銘柄
『パラサイト』(寄生虫)公式予告編動画(英語字幕)
(追記)日本語字幕の公式トレイラー動画はこちらの記事からどうぞ。
ポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」がゴールデングローブ賞受賞!日本公開間近
『パラサイト』の考察(ここからは多少ネタバレあり。ご注意ください)
上下
この映画の中では地位の上下が物理的な上下(高低)関係でもあらわされています。
住んでいる場所も主人公たちは半地下、パク社長の邸宅は丘の上で、たどり着くのにずいぶん上る必要があります。パク社長の家の中も階段がたくさんあります。上に行く階段を上るヨンギョを犬たちがついて回る映像があったかと思えば、地下室に下りるおそろしい階段もあります。
カメラも上から見下ろす撮影が何か所もあります。その目線の高さの違いが、そのまま心理的な地位を表しているようです。
水
もう一つ上下に関係するのが水です。
作中、パク社長一家がキャンプに行くと出て行った晩、大雨が降り、下町は洪水で大変になります。パク社長の家は高台にあるため何ともありませんが、主人公たちの半地下の家は浸水して汚物が逆流して大変なことになります。
水は上から下には流れますが、下から上には決して流れません。
これは登場人物たちの地位も同じです。
上に登ろうとしても、結局は上には登れないことを暗に表しています。
主人公たちはパク社長の家に入り込み、パク社長の留守中に上流階級の暮らしを満喫してみますが、その後、その地位に登れるどころか、最後にはギテクは自ら階段を下りて半地下よりも一層低い完全な地下の暮らしを選びとります。
善悪
また、下層住民は下層住民同士仲良くやるかというと、そうではありません。ムングァン、グンセ夫婦を、主人公たちは見下します。下層住民の中でも醜く上下関係ができて引きずりおろしあう争いが起こるのです。
よくドラマでありがちな、意地悪な金持ちと心清らかな貧乏人という図式はこの映画には当てはまりません。
インディアン
パク家の末っ子ダソンはインディアンに心酔しています。
インディアンと言えば原住民です。アメリカンインディアンがヨーロッパから侵略されたように、ダソン君一家も侵略され、後にこの家を出ることになります。
インディアンには超自然と通じる力もあります。地下室という別世界に住むグンセと遭遇したのもダソン君でしたし、パク家で唯一モールス信号を解するのもダソン君です。ダソン君の書いた「自画像」は実は以前遭遇して「お化け」と思い込んだグンセです。その絵が家族写真の横にかけられているさまは、まるで地下に住むグンセまでもが一つの家族であるかのように不気味に暗示しています。
大雨の日、一人庭のテントで寝るダソン君をパク社長夫婦が快適な居間のソファから窓ガラス越しに見ているシーンがあります。現在のアメリカにおいて、インディアン居留地の中で細々と伝統を守って暮らすインディアンと重なって見えます。
線と臭い
パク社長は、線を越えることを極端に嫌う人物です。ギテクを線を越えそうで越えないからいいと評価していますが、ギテクの臭いだけは否応無く線を越えてきます。ギテクの臭いは家族に共通した臭いであり、ムングァン、グンセ夫婦にも共通しています。下層民の臭いです。人が目の前で生死をさまよっていても、その臭いに顔をしかめたパク社長は、逆にギテクの線を越えてしまったのでしょう。その報いは死でした。
寄生しているのは誰?
一見すると、ギテク家族が寄生しているように見えます。パク家に入り込んだ方法を考えればそうとも取れます。しかし、しっかり働いてもいるので、労働の対価として正当な賃金を得ているだけとも見ることができます。
一方のグンセは、パク一家に何の恩恵ももたらしていおらず、ただ吸い取るだけです。これこそが寄生虫と宿主の関係です。
しかし、ギテクはパク社長の死後、グンセと同じ立場になります。この場合の宿主は、ドイツ人一家です。
ところで、パク社長とヨンギョは成功していて余裕のある暮らしをしていますが、子どもの教育や心理治療、家事一切、車の運転など、すべて他人任せで何も自ら生み出してはいません。一方でギテク一家はそのすべてを引き受けています。映画をよく見ると、ギテク一家は一人一人の持つ能力が高いことがわかります。このように見たとき、果たして、寄生していたのは実際のところどちらの家族だったのでしょうか。
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